忍者ブログ
        ここは“にゃんこのしっぽっぽ-猫的徒然話”です。 ここでは猫好きな管理人の趣味大爆走で御送りする、 ねこねこしたブログになっていくでしょう。 ちなみに、やはり愛猫ももちゃんが出現する率は高いです。
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新CM
[03/28 dkqmkpox]
[03/11 dajqcz]
[03/04 swcmvzpk]
[03/01 edynwj]
[02/19 www.jindae.com]
最新TB
プロフィール
HN:
ささら 由羅
性別:
女性
趣味:
創作とか♪多趣味。
自己紹介:
どうも、ささら由羅と申します。COOLな猫好きな人間です。(まわりの人間いわく猫狂い、猫キチガイ)。
愛猫は、ももと申します。可愛らしく、そしてナカナカ気のつよ~い女の子でございます。どうぞ、よろしくお願いします。
バーコード
ブログ内検索
P R
いらっしゃいませ♪
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ももとの最後の思い出ー回想記5

-
続きます。

-------------------      -------------------       ------------------

11月30日 朝  ももちゃんの最期の朝

6:30ぐらいだったと思う。弟の朝は早い…。

「…。ももを見ていかないのか?いいのかい…?」
私は弟にそう聞いた。
「うん、昨日見たし、流石に辛すぎる…」
「そうか…」
気持ちは痛いほどよくわかる。ももが死んだという事実は、とてつもなく響いてくる。
「お前の分も、祈っておくよ」
「ありがとう…」
なんともいえない、弟の出勤だった…。

今日は、ももの火葬の日なんだな…。そう思うと胸が痛んだ。
こんなに、可愛いのに、生きているように見えるのに、あと少しで骨になってしまうのだ…。
そう思うと壮絶に悲しかった。
ももが死んだのも強烈に悲しいが、このももを火葬にするのも悲しいものだ。
これほどまでに可愛いももを火葬にしてしまうのは、何とも言えない気持ちだった。
けれども、もうこういう形に決まってしまってるのである。

「もも、起きないのかよ… 君は起きないと骨になっちゃうんだよ…?」

部屋に戻って、ももに話しかけても、ももは動かない。
いつものようにノンビリとした優雅な顔でそこにいる。永遠に覚めない眠りの中にももはいる。
起きそうな顔をしているようなももだが、もう二度と目覚めない。
わかりきっている現実が酷く惨かった…。

日の光が差し込んでくる。来るなと思った日が来てしまったんだとそう思う。
こんな日が来るなんて、誰も望みやしないのに…。
もものために何もしてやれない自分が悔しくて、悲しくてどうしようもなかった。
なんで人間は自分の命を、動物にあげることができないのだろうとも思う。
一緒に幸せになっていこう♪と思っていたももは、もうここにはいない。

「そろそろ棺桶の中にいれてやろうよ…」
父親が告げた。私はももを棺桶に入れてしまうのがどうにも可哀想で入れられなかったのだ。
もう最後なのだから、狭い箱越しじゃない状態で、この家の空気に触れてほしかったのだ。
狭い箱に入るのは好きなももだったけれど、そう思ったのだ。

「そりゃそうだね…」
紙の箱というか段ボールの箱を綺麗に加工した箱、それがももの棺桶だった。
私が前日作成したのだ。
新聞紙を敷き、近所のENDOW家が亡くなったもものためにくれたピンクのフワフワなタオルを敷いた。2枚あるうちの1枚を敷布団にした、もう一枚は掛布団にするのだ。
このタオルはももが死んでからずっと彼女をつつんでいたものだ。
そして、どうもももが気に入っていたらしい金魚の手ぬぐい、生前は敷物やら被り物やらになっていたもの、死後はももの枕として使用していたものを、枕として畳んでで置いた。

ももは、すっかり固く冷たくなっていた。見た目ではわからないけれど、触ってみると残酷なくらい死んでいるのがよくわかる。
こんなに硬くて冷たくなってしまうなんて…。私の知っているももの感触ではない。
けれども、これはももなのだ。信じたくないけれど、これはももなのだ。

死体をそっと置き、ピンクのタオルをかぶせる。顔は見えるようにした。
見ている分には本当に死んでいるようにみえないのだ。ぐーぐー呑気に寝ているようにしか、やはり見えない……。
そして、そのももの周りに、親戚のISIKAWA家がくれた花を飾った。
更に、家に咲いてた、可愛らしく咲いていたオレンジ色の菊も入れた。この菊は、ちょっと前のも生前のももと一緒にいた時のことを思い出させる。
元は、この花は私の亡くなった友人のために持っていってやろうと思っていた花だった。
そんなことを、ももと話していたことを思い出す。

「この花、可愛いから、Sちゃん(私の亡き友人の名前)のところに持っていこうって思うんだ…。明るい色だしね」
「……」
ももはそんな私を見ていた。優しそうな見守るような目だったことを思い出す。
そんなことを家の庭で話していたのだ。

なのに、その花は今、ももの棺桶の中に入れられている。
永遠に眠り続けるももを飾る花となっている。惨いほど、ももは綺麗だ…。
そして、お供えしていたももの好物も入れ、私が先ほど書いた手紙も入れた。
寂しくはない棺桶の中である…。ももは少しはいいって思ってくれるだろうか…???
ももは静に優しい顔をして永遠に眠っていた…。


「って、おい、それはなんだ…?」
「へっ!?」
父突然、父はピンクの封筒を指さして言う。
「…。えっ!? ももへの手紙だよ。せめてもの餞別だ」
私は答える。

「おいおい、猫に手紙を書いたのか?」
父は呆れたように私を見る。私はまったくひるむことなくいう。
「問題はないでしょう? そもそも、ももは人間のしゃべる言葉を理解していたんだから、手紙だって有効でしょう? 文字は読めたかもしれないし、読めなかったかもしれないけどね。まあ、こんなことが書いてあるんだよと、念のために読んでおいたから、大丈夫だ」
「珍しいことをするんだな…」
「ももが喜ぶかどうかはわからないけれど、できることはしてやりたいだけだ」
「…。そういうもんか…???」
「人間の棺桶に手紙を入れる場合もあるんだし、猫に入れていけない理由はないよ。ももだって許してくれるよ。ももは賢くてかわいい猫だったんだからっ」
理路整然と入っていても、イマイチどっかずれた言い分となっている。
「なるほど…。しかし、変な奴だなあ…」
「なんとでもいえばいいでしょ、まったく…」
私は、どこか自分がぶっとんだ感じで父親につげた。口調は正常に近かったが、この時の私はあんまりまともじゃない気もした。
「…。昨日、なんだかお前が書いてたのは、この手紙だったんだな」
どこかしみじみと父親はいう。
「そうだよ、ももへの手紙だから、ピンク色なんだ」
「ギャグか?」
おいおい、オヤジ。私のももへの思いをギャグにする気か?
「可愛らしくていいではないか? ももだぞ、ももは可愛いのだし、でも上品にしたかったから、この封筒と便箋を出してきて書いたんだよ…」
「…。なんか、ももは喜ぶのかもしれないな…」
「……。何もしてやれない私からのせめてもの贈り物だ。はじめてだよ、ももに手紙を書くなんてな…。ももの生前には手紙を書くことなんかなかったよ…」
「おいおい、ももは猫だぞ。手紙読めねーだろ…」
「読んだかもしれない。可能性は否定できないんだ、ももだもの…」
「まあ、ももだしな…」
が、結局なんだかんだといって納得する父であった。

「よし、わかった…。その手紙読めっ」
「って、読むんかいっ!?」
私はこけた。親父よ、なんでこんな展開になる?
「書いたのだから、読まなきゃもったいないだろ~が…」
「もう読んだよ」
「俺が聞いてもいいものだろ~が~」
父親はぶつくさいうが、まあ、確かに言い分はその通りである。
「…。長いけどいいのか?」
「そりゃ長いだろうよ」
父親はふむとうなづいた。そしていう。
「…。読めや……」
「わかった…。 まあ、便箋7枚だからね」
「って、そんなに書いたのかーっ!?」
「ももへの思いは便箋7枚で終わるようなものじゃないのよ。本来はね。でも、無理矢理まとめたんだよ…」
本当にそうである。そんなもので終わるほど、ももへの思いは伊達ではないのだ。
「そんなにいっぱい封筒に入るのかよ…」
「入っているでしょうが…。もっともぎちぎちだけど」
「そりゃそうだな…」
父はとりあえず納得した。そうして、私は再びももへの手紙を読み始めるのだった…。

「じゃあ、読むよ……」
私は、ももの棺桶から、ももへの手紙を出すと読み始めた…。

ももが死んで哀しくて虚無だという事、ももはこういう猫だという事、
生前のももは、素敵な猫であった事…。
19歳4カ月の生涯にありがとうございますとおつかれさまと…
もものことを忘れないし、もものことを待っているから…

ピンク色の便箋は、ところどころ滲んで、字がぼやけているところもあった。
泣きながら書いたものだから、涙の一部がこぼれてたのだろう。
ともかく読んだ、淡々と読んだと思う…。
聞こえる自分の声が、自分の声じゃないみたいに聞こえた。

(もも、本当に死んじゃったんだね…)

ざっくりと、その言葉が私を刺した…。容赦なく刺しまくった…。
ももの死を認めたくない私が悲鳴をあげる。心の中で断末魔の叫びを何度もあげまくる…。
この虚無が壮絶に哀しみをどんどん持ってくる。
この狂いそうな苦しみはなんていうのだ???
この苦しみである痛みが、私の正気を辛うじて保って、やはりぶち壊していく…。


ともかく、ももへの手紙を読み終えた。 最後頃は涙声になりそうになりながら読み終えた。

「長かったな…。良くかけたなというか…7枚は書きすぎだろう…ラッキーセブンか…」
なんだか父親のわからん感想が出てきた。
「た、たまたまだ…」
少々力が抜ける…。ラッキーセブンて、おいおい親父…。
「よし、それコピーしてこいっ」
「おい」
父親のいったことに更に力が抜ける。が、父親はあたりまえだというようにいう。
「せっかく書いたんだから、コピーしなきゃもったいないだろう?」
「……」
私の動きは止まった。これは想定外だった…。
「な、何に使うんだよ、ももへの手紙なのに…。ももへの手紙だけど、ももはもう読めないし、意味ないだろう…?」
死者への手紙は、普通コピーするものなのか…???
「え? あとで読み返したいときに、コピーないと困るだろう?」
父親は不思議そうな顔をする。
ええっ!?
「よ、読み返さないよ…。もものことはいくらでも思いだすだろうけど、自分が書いた手紙を思い出すって、この場合ないような気がする…」
「ええ、そうか??? 残すつもりで書いたんじゃないのか???」
「そんなことしませんっ。只々私は、もものために、せめてめもの贈り物ということで書いたんだよ。まったく想定外だ…」
なんつ~ことをいう親父だ…。
「手紙を書いてコピーするって…、まあ、用心深い人とかならやるかもしれないけど、ももは手紙書けないだろうし…」
が私もなんだか奇妙なことをいっている…。
「コピーできるのに、しないなんて勿体なくないか…?」
「別に? なんていうか、本体がももと一緒に燃えるのに、コピーが残っているのって、なんかこの場合、なんともいえない恥ずかしさってのが出てくるような気がする…。おそらく、この手紙、今は平然としてみられるけど、時間がたったら、いろいろ恥ずかしくなるものだぞ。多分…」
我ながら、そう思った。
恐らく、もっとこう書けばよかった、こういうことをもっと書いておけばよかったと、反省しまくり、泣きそうになることが予想できた。
ただでさえ、悲しいのに、これは違う意味で拷問だと思う。
手紙は確かに自分の作品ではあるけれど、この場合はそもそも違うような気がする。
それに、この手紙はももへのものだ。それが誰かの目にふれるようなことになるのは、なんだかものすごく嫌だった…。

「勿体ないなあ、折角書いたのに…」
父親はう~んとうなって言う。
「そもそも恥ずかしいぞ…」
私はともかく反論する。
「そうかあ?」
「お父さんだって、自分の身内でも友人でも何でもいいけど、死者への手紙書いたとして、燃やす前にコピーしておく?」
一応私は父親にいってみる。
「いや、俺、そんなことしたことない。勿体ないだろうが…。燃えちまうとわかっているのに、そもそも書けないだろうが」
父親はきっぱりといった。
おいおいおい。力が抜ける、抜ける…。
なんというか…。そりゃあないだろう、親父よ…。

「とにかく、手紙はコピーしないよ。恐らく、私は回想記書くから、問題はないしね。それに手紙はももだけに持っていってもらいたいんだ。コピーしたら、なんか、お前は手紙を出すのが、ホントは惜しいのかって言われている気がしてくるんだ…」
私はそんなことをいった…。
「そうか?しかし、よくお前書けたな…。あんな短時間で…」
父親はそんなことをいう。
「…。いくらでも書けるもんだよ。本当はね…」
「お前のそういうところは、よくわからん…」
何故か父親はそう真面目に言った…。
「ももへの思いっていうのは、限りなく果てしなくあるもんなのだからね…」
そうだ、だからいくらでも書けてしまう。
本当は、哀しいぐらい残酷なほど書けてしまうんだ。

「この手紙は、ももだけが持っていけばいい…」
私は便箋を再び畳むと、封筒の中に入れた。そして、ももの枕もとにそっと置いた。
(私はまだあの世にいけないから、この手紙を代わりに持っていってね)
そんなことを思う。
「この手紙は、ももへの手紙なんだからさ…」
「まあ、そりゃそうだな…。好きにすればいいさ…」
父親はやれやれといった顔をする。私が頑固なのはもう嫌なぐらいわかっているのだろう…。

こうして、朝の時間は過ぎていく…。
刻々と時間は近づいてくる。物凄く速く、残酷に…。



--------------       ----------------       -------------------



ももとの最後の思い出ー回想記6 に続きます。

拍手[1回]

PR

猫の日ですね…。

2月22日、猫の日ですね。

猫の日よ、おめでとうございます♪


私の家では、毎年、猫の日は、愛猫もものお食事を、ゴージャスにして、彼女の大好きな濃い目の牛乳、カニカマ、チーズ、甘酒、生クリーム、果物とか…、そういうのを出してささやかに、
お祝いをしていました。

が、ももは昨年の11月28日に天国へいってしまい、今年は何もしません。

猫の日の記念にというご連絡を仏前にしたぐらいです。
あとは、少々お供え物のお食事を増やしました。
それから、梅の花を数日前からいけてあります。

この梅は、我が家の庭に咲いていたものです。
けれども、誰一人その梅を植えたものはいないのです…。
しかし、梅は今年突然、我が家の庭に現れたのです……。




去年までは、まったく姿も何も見せなかったのに、今年になって、あまりにも突然に、梅の木が現われたのです。
この梅の木が生えている場所は、生前、ももがよく眺めていたり、そばにいたり、結構気に入っているような場所でもありました。
そんなこともあり、ももが、実はあの世から梅を咲かせに来たんじゃないかという、そんな気持ちが、我が家ではしたのです。



まあ、どうも、この梅は十数年前、母親が寄せ植えのために買った小さな梅の木をを枯らしてしまい、それを庭に投げ捨てたらしい…。
それが原因で、梅は必死に生き延びようと頑張って来たらしいようでした。

ですが、我が家の庭は、生存競争も激しい様なワイルドな状態です。
どうも花を咲かせるには厳しかったのか、ずっと花のない状態で成長し続けたようなのです。
家族の誰も、梅の木が復活して育っているなんて気づきもしませんでした。

 

が、昨年、ももが亡くなって、新しく迎えた2018年の2月半ばに、突然に梅の花は咲き始めたのです。可憐に、品のある香りをほのかに放ちながら…。
家族には、ももが咲かしてくれたように思えたのです。

 

ももは、花の好きな風流な猫でした。

だから、自分の死で悲しんでいる家族に、元気を届けたくて、梅を咲かせてくれたんじゃないかな…。ふっと自然にそう思えたのです。

そんなわけで、この梅は、うちの家族の間では「ももの梅」となって馴染んでいます。

そのせいか、この梅は、もものように愛らしく、可愛らしい、そして、頑丈な梅なのです。
妙にどこか、ももに似ているのです。



そんなこともあり、この梅の花をももの仏壇に飾った今日この頃です…。

単なる偶然で、たまたまタイミングが合っただけなのかもしれません。
けれども、どうにもどこか信じているのです。
この世に残してきた家族のために、家族が元気になってほしくて、梅の花を咲かせた。
ももなら、やりそうな気がするのです。
かなり気が強くて、ももは優しいかわいい猫ですから、そんなことを思うのです。


 

ももちゃん。ありがとうございます。
だから、私はそう思うのです。
近いうちに、お墓参りにもいくね。この梅の花を持っていくよ。君の好物ももっていくよ。

拍手[1回]

ももとの最後の思い出ー回想記4

続きます。

-------------------      -------------------       ------------------

11月29日,30日早朝  足音が聞こえる…

父親が自分の部屋に
去り、私はまた、ももに手紙を書き始めた…。
ほんの便箋3枚ぐらい書くつもりが、すでに5枚ほどになっていた。ももに書く手紙だからという事で、薄い桃色の便箋と封筒を選んで書いたのだ。
儚くなったももに使うものとしてはいいかなと思ったのだ。

そういえば、この夜は少々奇妙なことが起きていたなと思う。ほんのささいなことだ。
別になにがあったというほどののものではないのかもしれない…。
けれども少々奇妙だった…。
それは思うのだ…。

しばらくたってから、それはまず起きた。

ひたひたひた…。ひたひたひた…。

2階から音が聞こえていた。弟は1階で寝ているし、母親は2階に物凄く豪快に寝ている。
おそらく父親が歩き回っているのだろう…。にしても、随分忙しいしいなと思った。
足音はちょっと早歩きぐらいのペースで聞こえてきたのだ。

ひたひたひたひた……。

やはり落ち着かないのだろうか…。眠れないのだろうか…。
そんなことを考える。父親の部屋の方から、しばらくの間その足音は聞こえてきた。
途中から、父親のイビキの音も聞こえてきた。まあ、寝ているのだろう…。

ひたひたひたひた……。
ぐぉ~…ぐおぉ~…ぐぉ~…。

……。ちょっとまて…。
なんで、イビキの音が聞こえるのに、足音が2階から聞こえてくるのだ???

イビキをかいたまま父親は、自分の部屋を歩き回っているのか???
いや、流石にそんなことはない。そんな器用なことをいくらなんでもしやしない。でも、父親しかいないはずの部屋のほうから足音は聞こえてきて、イビキも聞こえるのだ。

おいおいおい…。


泥棒か…?いや、それはない。いくら何でもそれはない。

もし、入ったとしたら、こんな静かになっているわけはない。何せうちの父親の部屋から聞こえてくるのだから、こんな静かなことはない。
鍵もかってあるし、そもそも家の構造上、私に気付かれることなく泥棒に入るなんて無理だと思う。

ひたひたひた……。

足音は軽快でである。そんな感じだ。うちの父親は大きいほうではない。かといって小柄でもないが、それを考えても、父親の足音とするには、軽すぎるような気がした。

ひょっとして、どこかの猫がまた、今度は父親の部屋に忍び込んだのか???

そんなことを考える。以前、うちはとあるお隣さん(現空き家)の黒猫のジジちゃんが、うちの母親の部屋に忍び込んで、大騒ぎな事になったことがあるのだ。
が、そんなことだったら、尚の事ありえない。何せうちの父親は猫好きなのだ。
何処かの猫が忍び込んだのがわかったのなら、喜んで大騒ぎしそうである。
が、父親はイビキはかいているが、大騒ぎはしていない…。

ひたひたひたひたひた……。

また、足音はする…。
が、私は疑問に思うものの、窓際にいるももの近くのテーブルで、ももへの手紙を書いていた。
とにかく私はそれを無視して手紙を書いた。
そんなことよりも、ももへの手紙の方が大事である。

ひたひたひたひた……。

やがて、足音は聞こえなくなり、イビキの音もだんだん消えていった…。


すとん、すとん、すとん…。

しばらくすると、足音がまた2階から聞こえてきた。
いや、足音というのには今回は違和感があった。
それは少々父親の部屋から離れたところで聞こえる。
もっとも姿を見ていないので、正確な位置は不明であるが。
軽いものを絨毯の上に落としたような響きが、私のいる部屋まで聞こえてきた。
もっとその音も繰り返し響くものの、別に1階に降りてくる気配もない。

「何もない…」
気になったので、私は2階まであがって、音がしたあたりを確認しに行った。
が、まるで私の動きを察知したかのように音は消えた。
まあ、しょうがないので、ついでにWCにいき、1階に戻って手紙を書き始める。
と、すこし経つと、

すとん、すとん、すとん…。

音は再び、2階から聞こえてきた。

「どうにもできないな…、ねえ、もも?」
いつものような感じでももに話してしまうが、こちらが動くと音が消えてしまう以上、どうにもできやしない…。できることは、この時点で、ももに手紙を書くだけである。
ももは、何も答えないのはわかっているが、やはり話しかけてしまう。
こんな少々奇妙なことが起きているのだから、ももが生き返るのではないかと思ってしまった。
が、ももは相変わらず生き返ることなく、静かに眠り続けた…。
いや、わかっているのだ。けれども、もう最後の夜とあって、私の頭も少々いかれている気がした。現実のすべてを受け止められない私は、少々狂うことで理性を維持していたのだ。

すとん、すとん、すとん…。

と段々音が大きくなってきた。こちらに近づいてきているようではある。
だが、階段を下りているわけだから、何かしら音はするはずなのにそんな音はしない。いやしたのか?どちらにしろ、それはわからなかった。
ただ、音だけが近寄ってくる…。
が、私の部屋の外、階段へ繋がる場所についたときにはピタッと音は消えました。
ドアが閉まっているので、そこに何がいるのかはわかりそうはなかった。

ひょっとして、ももの魂がうろついているのだろうか?
一番初めの足音は猫の足音にちかかったかもしれない…。
だが、今回のものも猫には近いかもしれないが、そのわりには重い感じの音にも聞こえた。
こちらの部屋に来たいけれど、ドアが閉まっているから、来れないのだろうか?
それとも私がいるから、来れないのか?
私が見たら大騒ぎのもととなるような、この世ならざるものがそこにいて、私を驚かしたくないから、ここに入ってこないのか?
ももの魂をかっさらいに来た、得体のしれない何かが私を恐れて、入ってこないのか?

どんどん思想はおかしくなる。でも、もしここに私がいることで、ももの守りになるのなら、ここにずっといたい気がした。まあ、少々怖いのは否めないのだが。

すとん、すとん、すとん…。

足音は家の外から聞こえてきた。どうやら、ドアが閉まっているから、こちらに来れなかったわけではないらしい。
階段を下りたすぐそばが玄関なのである。その玄関は夜中ということもあり鍵がかかってしまってある。それなのに、外に出ることはできたようなのだ。
一応鍵も確認したが、とりあえず閉まっている。
近くに弟の部屋もあるが、そこから出るのは不可能だろう。それこそまったく音をださずに、そこから外に出るのは、不可能である。
なんとなく足音の主は、人間じゃないように思えてきた。この世ならざるものなのかもしれない。そんあことを考えるが、だからといって、何ができるか?
何もできはしないのである。
別に害もあたえないなら、ほっとくしかない…。

「…。やばいな。思想が少々あぶなっかしい…」
独り言をいい、なんかお茶を飲む。少々冷えてきたし、一休みしようと思った。
足音が時々聞こえる以外は、部屋の中は静だった…。

すとん、すとん、すとん…。

とさっきの足音が、より大きくなって聞こえてきた。
どうも家の周りをまわっているようである。何ゆえに…??? 南洲まわっているのかわからないが、どうもまわっているらしい…。
で、ペースもだんだんじわじわとはやくなっていった…。

「この世ならざるものか?」
ひとりつぶやくものの、どうこうできるものではない。というか、発想がなんだかやっぱり危ないきがしてくる…。まあ、そう思いつつ、ももへの手紙を書くだけである。
手紙は、少し書くだけのつもりだったのだが、いつのまにか5枚になっていた。
書きたいことがいくらでも、出てくるのだ…。悲しいほど出てくる…。

どすんっ!
別に揺れはしなかったものの、おおきな音がした。足音にしては随分大きいが、すとん、すとん、すとんという足音にあわせるように音は出る。

どすん、どすん、どすん…。

少し、音のボリュームが減り、足音?は動いているようだ。何かいるような気がした。
一体家の外では何が起きているのだろうか?
微かに、笑い声がしている…???

ひたひたひたひた……。

最初に聞こえてきた足音も聞こえた気がする。

見えないだけに、何が何だかわからない。怖い様な気もするが、そのくせ、どうでもいいという気もしてくる。こういう場合は坊主や尼さんなら、もっと冷静に対処できるのだろうか?
別に出家も何もしていない私である。
あまり気は進まないが、お経のCDでもかければいいんだろうか???
そんなことも考えたが、私は結局のところ、ももへの手紙を書くのに集中していた。

しばらくの間か、短い間かわからないけれど、時はとにかく過ぎていき、やがて、手紙は書き終わっていた。その時には、時刻は4:30ぐらいだったかと思う。
そして、足音もすっかり消えて、何も気配も何もなかった…。
私は眠気覚ましにお茶を飲んでいたと思う…。

「…。いよいよお別れだね、ももちゃん。寂しいし、悲しいよ…」

何かの奇跡が起きて、ももちゃんが動き出すんではないかと期待したがそんなことは起きることなく、時は流れる。
ももは28日の日に眠って以来、一度も目を覚ますことなく、今日になった。
何度見ても、死んでいるようには見えないのだ。ただただ寝ているようにしか見えない。
起きたら、「今日のご飯は何?」といわんげに可愛さふりまくももは、もう、そんな姿をみせることは永遠にないのだ。

わかっている…。それが死というものだ。

永久に覚めない夢の中にいき、もう、”ここ”にはもどっては来ないのだ。
生きていたものが、ただの悲しい物体になってしまうことだ。
ここには、いままでいた魂はいないのだ…。

書いた手紙をももの為に読んだ。

ももはどんな思いで聞いているのだろう?
読んでいるうちに悲しさが更にこみあげてくる。
同時になんともいえない虚無もそこにあるのだ。
私は手紙を読んでいるのだな…。そして、今は手紙を読んでいる私も、いつかあの世にいくのだろう。まだ行くつもりはないけれど、どうにもそう思うのにもやたらに気力が失われて、イマイチだった。大切な者の死は簡単に、その対象を思う人間の心をぶち壊していく…。

そんなことを考えながら、ももの亡骸の前で手紙を読んだ。
手紙は、結局のところ便箋7枚になっていた。
こんなものでは、私の思いは書き足りなかった。が、どうにももうまとまらないので、無理矢理にまとめざるを得なかった。
ももは、どんな思いで聞いていたのだろう? ももは亡骸だし、生きている時のように浮かぶ表情、仕草、鳴き声で判断することもできやしない。

それでも聞いてくれるだろうか…?ももよ…。

手紙を読み終えて、淡いピンクの封筒につめると、便箋7枚では少々きつくなっていた。

ももよ、君への思いは、こんなものじゃないんだぞ。

溢れる思いは残酷に容赦なく、哀しみ、苦しみ、虚無を連れてくる。
あとすこしで、この愛しいももの姿を見ることができなくなるのだ。

えらく残酷で、酷い現実だと思った…。
そして、私はその現実を嘆くことしかできやしない…。


外が明るくなり始めていた…。こなくていい朝は来てしまった…。
私は黄昏るしかなかった。


---------------       ----------------       -------------------


ももとの最後の思い出ー回想記5 に続きます。


拍手[1回]

ももとの最後の思い出ー回想記3

続きます。

-------------------      -------------------       ------------------

11月29日 夜中 ももとの最期の夜

いよいよ、ももと過ごすのは最後の夜になってしまった。そう思うとどうしても、自分の部屋に戻る気にはなれなかった…。
どう見ても、リラックスして寝ているようにしか見えないもも。
けれど、この子は死んでしまっていて、明日の朝にはもう、この家にはいないのだ…。
火葬して御骨になってしまう現実。そんなのはわかっているけれど、認めたいとは思えなかった。
そんなことが、頭の中をぐるぐるまわる…。

かつて、うちにいた猫、つまりももの先代だった猫の ちーちゃん(ちい子)も思い出す。
あの時は亡くなったのは夏だったから、死体の腐敗を防ぐためにもあっというまに火葬したんだったのと思い出す。
ちーちゃんは、ももと同じサバトラ猫で可愛らしい猫だった。もっとも、ももとは違い気の弱い大人しい猫で、10歳で亡くなってしまった。随分と昔の話だ…。

この時は10歳であの世に行くなんてと思ったが、今度は19年であの世なのだ。
約1,9倍はももは長生きしたことになるが、それでも、なんでも悲しいのだ。
長かろうが、短かろうが、大事なものが死ぬのは壮絶にもうただただ悲しく、ただただ虚無だ。
この世にいなくなる。その事実が何処までも何処までも、悲しくてたまらない…。
いや、悲しいなんてものじゃない。もう自分が大破するのだ。粉みじんにされた精神でもって、
形容するのは不可能な思い感情に、押しつぶされて、ある意味、死んでしまうわけでもある。

もう、たまったものではない…。


「いつかは逝くとは思っていたけど、こんな突然来るとは思わなかったよ、もも…」

ぐーぐーねているようにしか見えないももに語る。その顔は少し微笑んでいるようにも見えて、切なくなるほど穏やかだ。
「美貌の猫なだけあって、最期まで美猫なんだな…」
こんなセリフ何度いったのだろう…。
なにも反応しないももが、酷過ぎるぐらい悲しかった。

ほんのちょっと前まで、ももは、夜中にお腹すいたよ~♪と御夜食をばりばり食べて、いっしょにいようね、一緒にねんねしよう♪と甘えていたのに…。
「みんなの確認しなくちゃね」と家族全員の寝室に順番に巡って、寝ていたのに…。
そんな当たり前の夜は、もう二度とこないのだ。もう二度と…。

亡くなる前日も、夜中に、猫缶をねだって、ばりばりと上品に食べ、すりすりもたっぷりしていたのに…。
そして、家族のもとに、巡って寝ていたのに…。

「悲しいじゃないか…」

ここにあるのは、惨い現実だ。
ただただ永久に眠る、19歳4か月の愛しい美猫だ…。

最期の晩がひとりだけで過ごすなんて、可哀想に思えて、せめて私はそばにいてやろうと思った。そのぐらいしかできない。そんなことぐらいしかできない。

「…。これからは寂しい夜になるね……」
添い寝をしながら、そんなことをいう。
亡くなるまで、夜はこんな風にふたりで、ごろごろしていたと思い出す。

「何でもないようなことがしあわせだったと思う~」
なぜか、ちょっと歌ってしまったが、本当にその通りなのだ。
「何でもない夜の事、二度と歯戻れない夜~」
残酷までにその通りで、何処までも悲しい…。そして虚無だ。

最期の夜は無慈悲に過ぎていく……。あってはならない、まだまだ先の未来の事だと思ったのに、ももはいない。ももはいない。ももはいない…。
目の前に寝ているももは、生きた猫ではなく、死んだ猫…。
スタイルはいつもと変わらないけど、もう最後の夜…。

「眠れないよ、最期の夜なんだぞ…。明日にはももがいなくなっちゃう…」
綺麗な美猫のももは、は本当に最後まで美猫である…。

そして、私は起き上がった…。なんのことはない、ももに手紙を書くためだ。

時刻は1:00を回っていたが、眠くはない…。そして、ほんの少しだろうが。もものために何かしたいと思ったのだ…。生者が死者の為にできることなんて大したものはない。
それでも、せめて、できることはしたかった…。

一旦、自分の部屋に戻り、便箋と封筒を持ってきた。
そして、テーブルにつくとボールペンを出して書いていた。ももに手紙なんか書くのは初めてである。そもそも生前のももに手紙なんか出したことはない。
ももは文字は理解してないのだから…。いや、そうではないかもしれない。
ひょっとして文字を理解していたかもしれない。
よくよく考えたら、理解していたとおもうようなエピソードがかなりある…。少なくとも自分の興味のあるものについては確実に字はわかっていたんではないだろうか…。
買い物のメモでチーズ、牛乳とか書いておいたものをテーブルの上とかに置いておくと、それを見て、ごろごろとのどを鳴らし、うきうきした顔でこちらにやってくるのだ。
「おいしいものでしょ~?ほしいな~♪」ってな顔である。そんな顔をして、嬉しそうに催促してくるのだ。
ちなみに、ももが好きではないものを書いておいてもこんな風には反応しない。
なんだかわかるらしい…。
日ごろも何故か本の傍で佇んでいる、そんなももなのだ。そんなこともありひょっとして…とは考えてしまう。
我ながら、猫バカなのかもしれない…。

それはさておき、猫に、しかも死んだ猫に手紙なんて、はじめてかもしれないと、妙に真面目に考えながら手紙を書き始めた…。


ーーー親愛なるももちゃんへーーーーー

貴女は非常に賢く、人間のいう事など容易に理解していました。どう見ても、理解していたようにしか見えません。ひょっとして、文字も理解していたかもしれません。
貴女の事だから、私達が思っているよりもいろんなことを知っている御方だったのかもしれませんね…。だから、ということもあり、手紙を書くことにしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そんな文章で手紙を書き始めました…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

突然、あなたは天国にいってしまいましたね。未だに信じられません。
亡くなるほんの30分前には、窓辺でのほほーんと呑気に、はっちゃんににた野良猫を見て寛いでいたのに、私は呆然とするしかなかったよ。
あなたは、苦しそうにのたうちまわりながら、私の腕の中で息を引き取りました。
私の腕の中で、私を見ながら、あなたの瞳の光がすっと消えるのを見ました。
あなたがふっと軽くなったのを感じ、信じられない気持ちであなたを抱いてた事を私は忘れることはないでしょう。
あなたが天国にいってしまった事実が未だに信じられないのです。
現実把握能力も何も壊滅しているかのような私ですが、あなたが生きているように見えてしまうのです。あなたは死んでいるといっても、ただただ呑気に眠っているだけの美猫にしか、いつものあなたにしか、見えないのです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

なんともいえない気持ちで、私は手紙を書き続けました。
書けば書くほど、書きたいことは、もういっぱいわいてくるのでした。
死ぬ前日の夜中には猫缶を思いっきり豪快に可愛く上品に食べ、そのあと、のんびり家族の見回りにいったももを思い出す…。
あんなに、元気よく食べていたのに…。まだまだ、長生きしまくって、グルメな猫ぶりも見せてくれるはずだったのに…。
ジャージー牛乳だって、いくらでも飲ませてあげれたのに…。
3回も「おかわり~」といって、ジャージー牛乳をおねだりして、おかわりしていたももを思い出す…。もう何度繰り返しただろう…。

「グルメなんだよね、もも、お前は…」

傍で眠っているようにしかみえないももをそっと見た…。
夜中に書き物とかをして、ももがすぐ近くでぐーぐー寝ていた。そんな時はよくあった。
あたりまえのように、そんなことがあったのに、もう、それは当たり前のことじゃなくなったのだ。いま、ここにいるのは永遠に眠ることになったももで、この姿をしているのも、あと僅かなものなのだ。火葬にいけば、もう問答無用で儚き骨になってしまうのだ…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あなたは、19年と4か月、うちの猫として立派に生きました。

とんでもなく美人で、とんでもなく賢くて、とんでもなく可愛くて…。
そして、とんでもなく優しい猫でした。
ちょっと変な趣味もある、素敵な猫でした。
あまりにもいろいろ凄いので、猫又ではないかと疑われる、まれなる猫でした。
家族だけではなく、まわりの人々にも愛され、またあなたも、家族を愛し、まわりの人々も愛する素晴らしい御方でした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そんなことを書いていると父親が来た。

「お前はまだ起きているのか…寝ないのか?」
「一応ちょっとは寝て、今、ももに手紙を書いている」
「猫が手紙を読むのか?」
父親は呆れたように言う。
「ももだったら、あの世で読むような気がする」
「おいおい」
「ももは私の膝の上で本を読んでもらったり、PCの画面を見てたりしてたしね。それに、お父さんの部屋でお父さんとクラシック音楽をきいたり、となりのENDOWさんちにお邪魔して花を観賞しているような風流な猫なんだから、文字を読めても不思議じゃないでしょう?」
「…。確かにそうなんだよな…。猫だけど人間みたいでなあ…」
父親もそんなことをいう。
「俺のピアノの素晴らしい演奏を聴く奴もいなくなっちゃったんだな…」
「…。 そういうことだ…」

頭がくらくらした…。父よ、こんなところでボケかますでない…。

唐突に説明するが、父親のピアノの演奏は演奏ではない。
いってはなんだが、騒音レベルで酷い…。人の話をまったく聞かない人で、自分の思い込みだけでやるので、凄まじいものになっているといっておこう。
が、本人は、それを素晴らしいものだと心の底から思え、人に対してはとにかく上から目線で音楽とはなんだかんだというので、家族はこれに関しては呆れてしまっているのだ。
で、父親はこの家族は「音楽のよさがわからないんだっ」というのだ。タチが悪い…。

「ももは、俺のピアノの演奏を嬉しそうに聞いていたんだよなあ…」

それはさておいて、父親は過去を懐かしんでいる。まあ、妄想は自由である…。

「ももが若いころはピアノの上で、歳をとってからは床の上か、ソファのうえにのって佇んで、俺の演奏にうっとりと聞き惚れていたんだよなあ…」

ももの生前の話は、とんでもなく美化された話となっていた…。かなり…。

実際のところ、ももは懐のおおきな温和で優しい猫なのだ。
つまり、なんていいますか、父親の騒音といわんばかりの演奏をうっとりと聞いていたのではなく、しゃーねーなーという感じで、聞き流してただけなのである。
要するに父親の酷い演奏に耐えられる精神、もしくは耐振性が強靭だったので、父親がいっくら酷い演奏をしても、やさし~く見守れるという類まれな猫だったのである。

死人に口なしといわんばかりに、父親は、かつてのももの昔話をした…。
ももの死体は、しゃーねえーなー…といわんげな顔をしているように思えた…。
できの悪いおバカな息子の面倒をみて、溜息をついている母親の図のように見えた…。

「もも~、お前なあ、もう俺の素敵なピアノの演奏聞けなくなっちゃうんだぞ…」

悲しそうな父親の声が静かに響いた。
ももは、答えない…。答えるわけがない…。いろんな意味でいえない…。

「寂しくなるじゃないか…。お前だけが俺の演奏聞いてくれたのにな…」
確かにそうである…。家族はみんな耐えられない…。
父親の事を凄まじく妄想が激しいとものすごく思うが、本当に寂しいのは真実である…。
「あの世では俺の演奏も、クラシック音楽もきけないんだぞ…」
私は戦慄していいんだか、悲しんでいいんだかわからない状態である…。

「お前だけが家族の中で、俺の芸術をわかってくれるいい奴だったのになあ…」

いろいろツッコミはいれたいが、そんな元気はない。ただ父親のいうのも理由は全く違うとは思うが、ももは確かに父親のピアノの演奏(騒音)を理解した奴?ではある。
自分の理解者を失った壮絶な痛みはよくわかる…。ものすごく複雑だけど。

「もも、お前はもう俺のピアノ聞けないんだぞ…」

悲しそうに父親はいった。が、申し訳ないが気分は複雑である…。悲しいのはわかるけど、ももは今どう思っているのだろう…。ふとそんなことを思う…。
彼女もいろいろツッコミを入れたかったと思う…。ももの顔も複雑そうに見えた…。

と父親はやさしく、ももの頭を撫でた。ふっとももは笑った気がする。
そのあとも、父親はなんだか、ももに話しかけていた…。

「死んだようには見えなくて、やっと体も死体らしく随分硬くなったけど、しなやかだな。
もう、冷たくなっちゃったけど、暖かい様な気がする…。死んだのに、すぐに体が硬くはならなかったのは、みんなに、こうやって撫でてもらいたかったからなんだな、もも…」
父親はももを撫でている。
「こんな呑気な顔していて死んでいるんだからな…。幸せだったんだろうな…」
確かにそうかもしれない。繰り返される思い…。

ももは、あんなに暴れて苦しそうだったのに、亡くなる直前、私の顔を見た時にはすーっと表情は緩んで穏やかな顔をになって、力尽きたのだった…。
瞳の中にあった光もすーっと消えていったけど、本当に穏やかに、まるで、別の生き物というか化け物のような凄まじい姿だったのに、いつもの猫の姿、ももの姿に戻っていったのだ。
苦しみから解放され死に向かう時、彼女は猫に戻ったのだろうと思う…。
そして、美猫である自分を崩すことなく、あの世にいったのだ…。

「みんなを悲しませないために、こんな顔で死んでいったのかもな…。本当は、3年前死ぬはずだったのに、頑張って、ももは長生きいたんだ…」
「そうかもしれないな。私があんまりにも情けなかったから、根性で生きたのかもしれない…」
3年前、ももは腎不全になり、心臓もよわってしまい、死にかけたのだ…。
が、薬を飲み、点滴を打ちなどし、世話をした結果、驚異の回復力で復活をし、獣医の先生たちを驚かせ、まわりの人間も大いに驚かし、復活したのだ。
回復し始めのころは、ご飯もろくに食べれなくて、体重も2、6kgしかなく、水も飲めなかったけど、あっというまに、見る見るうちに回復していったのだ。
1週間たったころには、死にかけたことが嘘のようにけろりとして、体重も3か月後には3,8kgに戻りました。本当にあの時はいろいろびっくりしたなあ…。思い出すとももはやはり凄い猫である…。

「今回も私はまだまだ相当情けないんだから、また奇跡の復活してほしかったよ…。 こんな情けない私を置いて、あの世にいっちゃうんだからなあ…」
そうぼやくしかなかった。奇跡でもなんでも起こしてほしかった…。

「もう、限界だったんだよ…。ももは精一杯生きたんだよ…」
「もっと精いっぱい生きてほしかったよ…。ももは、私が60歳になるまで生きてねっていったら、にゃ~っていってくれたし、私よりも長生きしそうな顔しているのに、これはあんまりだ…」
父親は溜息をつく。
「いくらなんでも、そりゃあ、無理だろう…」
「いや、ももなら出来たはずなんだ。不可能を可能にする猫だったんだから」
不毛なセリフだ。わかっている。それでもいわずにはいられない…。
「ももは、猫としては長生きだぞ…。ちーちゃんは10歳だったんだしな、随分長く生きたよ、19年だぞ? かなり長生きだぞ?」
「何年生きようが死んじゃえば、みんな早死ににしか思えないよ…。死んでしまえば永遠のサヨナラってことは、何年生きてもそれは同じだし…。いや、わかっているんだ、でも納得いかないよ、多分納得はできないよ…」
父親とぐたぐた話しながら時は過ぎた。

ももはどんな気持ちで見ていたんだろう…?
わかるはずはない。生きているならともかく死んでいるのでは、どうにもできない。
それでも、「しゃ~ね~な~、この人達は…。」と思いながら見ていてくれたような気もした。
ももは、家族思いの優しい猫だ。だから、死んでもそのまなざしは優しく、私達一家をみていたんではないかと思う。

こうして、時は流れていく…。物凄く、早く時は流れた気がした…。



----------------       ----------------       -------------------


ももとの最後の思い出ー回想記4 に続きます。

拍手[1回]

ももとの最後の思い出ー回想記2

続きです。

------------------       -----------------------        ---------------------

11月29日 夜 

夜になり、弟にスマホをかけることにしました。昨日の時点で、スマホなメールで連絡は入れておいたのですが、なにも反応がなかったのです。
私はとてもしゃべることなど、できなかったので、メールで連絡をしたのです。

が、仕事が急遽夜勤になってしまったのか、弟は昨日帰ってこなかったのでした。
にしても、まったく連絡がないのもおかしいと思い、スマホをかけました。
翌日が火葬をする日だったので、万が一あえなかったなんていうオチになってしまったらシャレになりません。念のために連絡をすることは問題はない。そんなことを考えてたかと思います。

「もしもし…?」
繋がったところを推察するに、どうやら小田急線形のわりと賑やかな駅でした。
「ん~? どうしたの?」
弟はのんびりとスマホに出ました。
「今日帰ってこれるよね?」
自分の声が、なんかものすごく硬質にカラカラ乾いているように聞こえました。
「そりゃあ、帰る予定だけど…??? どうしたの??? なんか、ね~ちゃんおかしいぞ」
私の様子が変だというのは、なんだか弟も気づいたようでした。
怪訝そうに彼は聞きました。
「おかしくもなるよ。ええっと…、昨日メール、スマホに出したんだけど、見てないか?」
「え、来てたの??? 気づかなかった…」
弟の声が頭にごおおおおおんと響きました。

なんということだ、弟は知らなかったのか…? だから、だから、こんなこんな…。

私の思考はすでになんか壊れていた気がします。

「いったい、どうしたんだ???」
弟は怪訝そうに私に聞きます。
「そうか、知りようがないから、そりゃあそうだね冷静でいられるんだ。私の失策だ。ええとね。私もどうかしていると思うんだがね、それはいいや…。あのね、ももが死んだの…」

「え…???」
「だからね、ももが死んだの…。昨日突然死んだんだ。あっというまにね…」
「えええ??? ももが??? ももがどうして死ぬんだよ???」
弟の声が一瞬止まって、愕然とした声になっていた。
「わ、わたしが、そんなの聞きたいよ…」
私から、ボロボロ涙がこぼれた…。
「あっというまに、凄い勢いであの世にいっちゃったんだ…。ほんの30分前には、窓辺で、窓辺で…、優雅にのんびりと、はっちゃんそっくりな野良猫みてたんだよおおお… うぎゅっ…」
こらえきれなくて、言葉はぐしゅぐしゅになってきた…。
「ええ、どうして、ももがっ???」
「もう、どうしたらわからなくて、お前に電話もかけれないから、メールをなんとか飛ばしたんんだ。でも、とどいてなかったんだね。ごめんね、ごめんね…」
「いや、俺も気づかなかったから…」
弟も、茫然として、もう途方にも暮れているようだった。

「今日は意地でも帰ってきて…。頼むから帰ってきて…。帰ってきてから、説明するから…。もう、今説明しても、説明にならないよ。ごめん…」
「帰るから、待っててくれ…」
「はやく、帰ってきて…」
そういって、私は電話を切った…。本当に心底、弟に早く帰ってきてほしかった。
このままでは、自分がぶっ壊れて、狂って、おかしくなって、消滅するような気がした。

電話を切ったあと、父親と母親がなんか言ってきたが、もう何がなんだかわからなかった。
ただ、母親の
「メール出したのに、とどいてなかったのお~???」
という声や、
「直接、電話すればよかったのに、あっ、でも仕事の邪魔になっちゃっていたかあ~?」
とかいいっていた声を聴いたと思う。


1時間後、弟が帰ってきた…。

「ももが、死んだって、本当なの???」
玄関に入ってくるなり弟はそう言った。顔は信じられないとといった顔である。
そりゃあ、信じられないだろう。
「私も嘘だと思いたいんだ…。どう見ても死んでいるように見え…見えないんだよ…???」
私は、また涙がこぼれそうになる。

「ももは何処…??? いるんでしょ???」
「うん、整えておいてあるよ」
努めて、弟は冷静にいった。
「見ていいの?」
「見ないでどうするんだよ、頼むから見てくれ…」
私は、弟をももの眠る窓辺に案内した。

「もも…??? もも…???」

乾いた弟の声が響いた。
「おいおい…。どう見ても、いつもみたいに寝ているようにしか見えないんだけど…」
「私もそう思う…」
何度見ても、ももは優雅にぐっすり呑気に眠っているような姿にしか見えないのだ…。
「でもね、でもね、全然起きないの…。なあんにも起きてくれないの。動きそうなのに動かなくて…。でも死んだはずなのに、確かに、ほんのちょっとあったかくて、ちょっとほんのちょっと硬くなんたけどやわらかくて、生きているみたいで…、詐欺だよ、これはああっ!」
もう思いの持っていきようがない。

「俺ができることってなんだ…?」
「せっかくだから、御線香はあげてあげて…。なんか、ももにいってあげて、ももをなでなでしてやって…」
なんだか、ちんぷんかんぷんな状態である。

御線香をあげると、弟は、
「なんか、生きているみたいだけど、生きてないんだね…」
ももがかぶっていた布団代わりのピンク色のタオルをはずし、ももをなでなでした…。
本当にいつものように……。

ももは、いつもの撫でられて、気持ちよさそうな顔をしているようにしか見えなかった…。
「なんだよお、気が抜けた眠り顔にしかみえないぞ…」
弟は茫然としながら、ももを撫でる。
「うん…」
「お前、寝ているようにしか見えないけど、死んでいるんだな… 綺麗なまんま、あの世いっちゃったったんだね」
「本当に綺麗なまんまだね…。もうね、死ぬときすんごい苦しんで暴れていたんだ…。シャレにならないぐらい暴れてさ…。私はもうしょうがないから、獣医さんに連れていく準備して、いくしかなかったんだ……。まさか死ぬとは思ってないしね…」
「そりゃあなあ…」
「でも、床におかないでずっと抱いてればよかったのかもしれない… 慌てて、かご持って来ようとして動いたけど、ももが急に動かなくなって…」
いいながら、ももの最期が思い浮ぶ。忘れることのできない思い出として、それは甦る。

「慌てて、抱き上げて、ももを見たんだけどね…」
「うん…」
「私を見ていた…ももの目から、すーって光が消えていったんだ。ももが最後に見たのは、慌て狂った私の姿だったのかもしれない…」
弟は泣いていた。
「同時にすーっと、ももが軽くなって…、もう猫じゃない悪魔かなんかのようだった顔はいつの間にか穏やかなそれになっていてね…。もう惨いぐらい…」
私もまた何度目かわからない涙がこぼれていた。もう自動的にどぼどぼ出るのだ…。
「私は、ももの目を閉じさせて、出てきちゃった舌を中に入れるしかできなかった…」
「うん…」
「なんにも、ももを助けられなかったんだ…。なんにも…」
「うん…」
「あんなに苦しんでいたももを何も助けてやることなく、ももはあの世にとんでもない勢いでいっちゃったんだ…」
ぼろぼろと兄弟でしばらく泣いた…。

「死ぬなんて、想像できなかったよ…。30分前には、はっちゃんに似た野良猫を見て、優雅にのほほんとしていたんだよ??? それが30分後には、あの世にいっちゃうなんて誰が想像できるんだよ???」

ももは、悠然と眠っている。もう二度と冷めない夢を見ながら、死んだとは思えない、美しい姿でそこにいる。気の抜けたような、生きているような気持ちよさそうな寝顔でそこにただただ永遠に眠り続けるのだ…。

「19歳と4か月…。猫としては長寿だと思うけど、もっと長生きしてほしかった。こんあの早死にだよ。私がが60歳になるぐらいまでは生きててくれる、そんな気がして、そんなこと簡単にできそうな顔をしてたくせに、こう、あっというまにあの世に行っちゃったんだ…」

「本当に死んじゃったんだな…」

「こんなことだったら、ジャージー牛乳の増してあげればよかった…。もも、「おかわり~」ってちゃんと発音して、催促して3杯も飲んだけど…。こんなことなら、もっといっぱいのましてあげたかったなあ…。後日、濃い目の牛乳はあげたけどさあ…」
もう、後悔ばっかりが止まらない…。

「モンプチも、ちゃおちゅーるも、イナバも、シーバも、カニカマも…、他にも、もっといっぱいあげたかったなあ…。ごめんね、ももちゃん…」
もう、ただただ泣くしかない…。

「せめて、お供えに、ジャージー牛乳とか、キャットフードとか、甘酒とか、そなえたけどさ…。なにも用意しないなんてできないでしょう…」
「そりゃあなあ…」
「お供えとかを買い物している時に、本来なら、生きているももちゃんの為に私は買い物していたはずなのにって思ったら、お店で泣き叫びそうになったよ…」
「だろうなあ…」
「とまかく、ももにしてあげれることはしたよ。セミントラ(腎不全の薬)もあげたし、ジャージー牛乳もあげた…。最期のお薬に、最期のジャージー牛乳だ… 死体だから、口濡らしただけだったけど、それがえらく惨く悲しかったんだ…」
「うんうん…」

ただただ、ももの話をして、ももを撫でていた。
そんなことぐらいしか、私ら兄弟にはできなかった…。
気が付いたら、もう夜中の11:30にはなっていた……。

「じゃあ、俺、そろそろ行くわ…。もも見るのは、もうつらいよ…」
「うん…。もも、喜んでいるよ。ちゃんとお別れできたのだから…」
弟は涙を拭いていう。
「明日には火葬につれていくから…お前も来れるか…?」
「悪い…。行くことは不可能だ…もうしわけない…」
たしか、そんな話をした…。仕事の関係で来れないという事だった。

「私は、最期だからいってくる…。きっついけどね。こんなに可愛いももが骨になるなんて信じられないし惨いけど…」
「最後に付き合えなくて、すまない」
「おまえの分も、ちゃんと祈ってくる…」
「ありがとう…」

夜は悲しく過ぎていった……。
火葬の日は、刻々と近づいてきた…。物凄く惨いのだな…。

そう思った。残酷なほど当たり前なのかもしれないけれど……。



----------------       ----------------       -------------------


ももとの最後の思い出ー回想記3 に続きます。

拍手[1回]



忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne