「ところで、あの黒猫ちゃん、どうして、お母さんの部屋にいったんだ??? で、お母さんにびびられて、慌てて逃げようとして、あの壁とクローゼットの間に落ちて、一週間のまず食わずだったわけだよね?」
「どうした?」
父親との会話である。
「そもそも、普通、飼い猫って、人の家の2階になんか入るかあ???」
「いや、あの黒猫、ほとんどが家の中で飼われているからじゃないか?」
確かに、あの黒猫は、家の中にいることが多く、外に出ることはあまりない。そして、外に出たとしても、長いロープにつながれて、そんな遠いところにはまず行けない。
「いや、だったら、余計に人の家なんて入れない気はするんだけど……」
「以前入ってきた時があったから、それで気に入ったのかもしれない」
「物件を見に来たお客さんかい…」
「で、ここはいい感じだと見なして、2階も見てみよう♪となったのかもな…」
父親はいう。
「というか、すぐに追い出したんでしょ、確か…。そんな状況で気に入る方が変だぞ……」
私がいうと、父親は大真面目にいう。
「ちょっとマゾだったのかもしれない」
「おいおい」
どんな猫やねん……。
「まあ、気質かどうかは知らないが、恐れ知らずだったのかもしれないな」
「なんだか黒猫がただの馬鹿に見えてきたぞ」
「おいおい」
原因になった一言をいったのはあんただろうが…。
父親はいう。
「まあ、黒猫はここの家も自分の家、テリトリーに思ったんだろうな…。で、なんとなくドアの開いている、お母さんの部屋に入って、寛いでいて、で、夜中になって、自分の家に帰ろうとして、お母さんにすりすりとして、帰ろうと思ったんだろう」
そうであろう。ドアが開いてたとしても、時間が経つにつれて、キチンと閉まった可能性だってあるわけだし、そう考えれば、そこにいる人間に声をかけて(!?)ドアを開けてもらって、帰らしてもらおうとするのは自然である。
「が、思いのほか、お母さんが予想外にビビッて大声を巻き上げ、どたばたと大騒ぎになってしまったので、恐れおののいて逃げているうちに、壁とクローゼットの隙間にすぽんと…」
だとしたら、笑え…いや、哀れである…。
「猫からしたら、悲劇だったかもな…」
「そりゃあ、お母さんに近寄るぐらいだから、親しみは感じていたんだろう。が、うちのお母さんは“叫んで暴れた”わけだから、猫からしたら『なんでえぇっ!!?』ってなところなんだろうな…」
「家の外を知らないから、人間は自分に優しくするものだと思い込んでいたとは考えられるな」
「まあ、それで猫は驚愕と恐怖のために、パニックを起こし、あの壁とクローゼットの間に落ちたのか…。浮かばれないというか、うーん…」
まあ、猫からすれば、やはり悲劇ではある。
「とりあえず、あれから黒猫はおとなしくしているらしい」
そりゃそうだろう。
「でも、そのうち、来るかもしれない」
「来るかあっ!?」
「来ても、ももちゃんと喧嘩でしょう…」
「仲良くするかもしれないぞ、助け出された時、ももはいたけど大人しかったし」
ちょっと思い出してみる。
・・・・・・・・・・・・。そういや、寝てなかったか…???
「まあ、しばらくはこないだろうけどな…」
「ところで、お父さん…」
「なんだ?」
「あのうちって、黒猫って2匹いて、しましまな猫も1匹いるんだけれど、しましまの猫はともかく、黒猫は、区別できる?私は自信ないけど…」
「って、黒猫が2匹もいるのかっ!??」
どうも知らなかったらしい。
「いいなあ…」
「いいのかい…」
まあ、こんな感じで時はたつ…。
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